
フクムラです。久しぶりの完全新作小説です。ずっと構想だけしていて、作品にまとめたかったものが実現しました。10年くらい前に書いた「男の子の躾け方」の続編となります。
※まだの方は、先に以下の短編を読んでいただきますと、より愉しめるのではないかと思います。
10年ぶりの帰省だった。中学を卒業した後、全寮制の高校に入った僕は、東京の大学へ進み、そのころから『実家』に帰らなくなった。
義母の志津絵は、それでも大学の授業料を満額負担した。世間体を気にしてのことだろう…。
半分しか血の繋がらない姉の志穂は、しばしば「恩知らず」「どういうつもり?」などと書いた手紙をよこした。僕は一度も返事をしていない。
妹の綾とは疎遠になった。彼女は不登校気味になり、中学生になると明らかに悪い仲間とつるみ出した。15歳で知らない男性の子を宿し、未婚の母になった。彼女も早々に『実家』を出て、夜職で食いつないだようだ。最近、看護師の資格を得て昼の世界に戻ったという。
綾の一人娘、結菜(ゆいな)。ちょうど10歳になる。ツインテールの黒髪が、昔の綾とそっくり。綾と2人で渋谷の街を歩いてるときに偶然会って、驚いた。昔の妹のように純真な少女…と思いたいが、幼なくして極端なミニスカートに、臍を出した黒いトップス姿だったのが気になった。
姉の志穂は結婚したが、勝気な性格がわざわいして(と、勝手に思っている)離婚した。しかし、二児をもうけていた。
長女志央里は、16歳。志保と同じ勝気な性格。あかね流の跡取りとして、5歳から修行に励んでいるらしい。次女沙梨菜は、14歳。よく知らない。
相変わらず女しか生まれない『呪われた一族』だ。

美津子叔母様と、その娘のノリコがどうなったかは知らない。たしかノリコは外国人の夫と結婚して、オーストラリアで暮らしていたはずだ。
理絵子叔母様は50代に突入し、独身のまま「男漁り」をしているとかで、あまり素行が良くない。しかし、伝統的に、男の性については厳しく取り締まる反面、女のサガについては寛大であり、自由恋愛を推奨するのが「あかね流」ならではと言えた。
大学4年のときに、理絵子が上京して、泊るところがないと強引に僕のアパートに押しかけてきたことがあった。彼女は1週間近くも滞在した。正直なところ、僕は彼女に食われた。彼女は22歳の僕が童貞であることを知ると、豊満なカラダで押しつぶすように、思う存分、若い男の肉体をむさぼったのだった。
鳥羽ゆみ。嫌な女だ。全寮制の高校に入って二度と会わないと思っていたが、大学のゼミで再開した。僕は大学に入るのに浪人したため、彼女は一学年先輩になっていた。彼女はなんだかんだ理由をつけて、僕に付き纏いした。僕は相手にしなかった。鳥羽ゆみは大学を卒業してすぐ結婚・出産したらしい。すでに7歳くらいの娘(茉優花)がいる。
茅ヶ崎小春。同じゼミの先輩。この人も鬱陶しい女だ。僕の『実家』に興味を持ち、何かと探りを入れてくる。ゼミの飲み会で、無理やり酒を飲まされ、潰されたことがある。気がついたら彼女の部屋で寝ていた。そのことをずっとネタにされた。今でもたまにLINEで連絡がくる。

この忌まわしい物語は、あかね流の先代(志津絵の叔母にあたる)の死去がネットニュースで取り上げられ、茅ヶ崎小春が鳥羽ゆみと共に、僕の安アパートを尋ねて来たことから始まる。
鳥羽ゆみは、先月離婚調停が成立したと言い、「クズ夫と別れてせいせいしたわ。マサミチさんは、どうして結婚しないの?小春さんとはどうなってるのよ」と笑った。
小春は小春で、「ああら、マサミチくんなんて頼りなくて…いまだに大学生のアルバイトの延長で、駅前のカフェで働いてるんですって。信じられないでしょう。30歳も目の前だっていうのに!」
そういう彼女も、劇団員とは名ばかりのその日暮らしのフリーターだった。
そんなことより、僕は突然押しかけてきた女2人(+鳥羽ゆみの娘茉優花)に激しく動揺していた。
彼女たちはキャリーケースを持ち、一目で旅行スタイルだと分かった。
「なにをもたもたしてるの。早く準備してよ。新幹線に遅れちゃうわよ」
鳥羽ゆみが、昔と同じ命令口調で、僕の部屋を勝手に漁りだした。
「パンツ、くつ下、あ、あなた喪服なんて持ってないでしょ?」
小春がベランダに干したままの下着類を、無遠慮に自分のカバンに詰め込んだ。
「あ、小春さん。あかね流の葬儀は、男性の参列は認めてないの。だからマサミチさんは、喪服はいらないかな」
…それだったら、僕は行かなくても良いのでは。そうした思惑を見抜いたように小春は、
「それはダメよ。マサミチくん。お世話になった先代が亡くなったんでしょう。それにわたし、マサミチくんが育った由緒あるあかね流のお家を見てみたいわ」
こうして、急遽、思いがけない帰省が決まった。僕はほとんど着のみ着のままで、のぞみ号に乗せられた。横浜から、妹の綾と、その娘ゆいなが合流した。この日のゆいなは、リボンのついた白シャツに紺色のスカートという清楚なスタイルをしていた。

シーズンオフなので新幹線の車内は空いていた。女5人は席を回転させて、女子会を楽しんだ。僕はぽつんと離れた席に座っていた。10年ぶりに「実家」に帰る僕の緊張感はハンパない。姉の志穂は僕を見て、何と言うだろうか。美津子叔母様は。ノリコは帰国しているのか。あの理絵子はどうしているだろうか…。そして義母の志津絵は。さまざまな女たちの顔が、窓ガラスの向こうに思い浮かんでは消えた。
新幹線に乗っている時間は2時間たらずだが、あかね流宗家は、田舎道をタクシーで優に1時間走らないとたどり着かない。しかし、タクシー運転手は言わなくてもその場所が分かる。片田舎の名家だった。
先代の葬儀自体は、特段何もなく終了した。そもそも僕は参加資格がない。各界の著名な女性や、芸能関係者、政治家、起業家等が参集していたはずだが、「男は穢れているから」という理由で、僕だけは、旧家の離れを改造した部屋に遠ざけられていた。
離れからは、小さな庭をはさんで土蔵が見えた。200年続いたと言われる“あかね流”にまつわる様々な怨念を閉じ込めてあるようで、非常に不気味だった。昭和初期くらいまで、土蔵は私的な牢獄の機能があり、一族の女性たちは、ここに穢れた男を閉じ込めて、一生光を見せないようにしたこともあったという…。(姉の志穂がよく話をした。)
土蔵の向こうには、薔薇の生け垣がある。時期によって、さまざまな種類のバラが咲き誇り、それはまるで女性たちの美と権威の象徴だった。
バラに囲まれた庭園。芝生が植えてあり、世間から隔絶された女権家族が集う場所。
最近は、やや手入れが行き届いていないのだろうか。あるいは、よくない病気が蔓延したのか、枯れて花を落としたバラが目立つようだった。

葬儀が終わり、4日過ぎた。僕はまだ義母に対面することを許されない。帰りたいと思った。しかし、僕の財布の残金は5000円くらいしかなく、帰りの新幹線はおろか、駅までのタクシー代すら怪しかったのである。事実上の軟禁状態と言えた。
朝夕の食事は、この家に住み込みで働いている女中(という呼び方をして、姉にひどく叱られたことを思い出した。ハウスキーパーと呼ばなければならない)が、交代で運んできた。昔からいるのは、内村奈々子である。30代半ばになっていた。今は住み込みではなく、車で毎日1時間かけて通っているらしい。内村奈々子の下で、3~4名くらいの若いハウスキーパーが甲斐甲斐しく働いていた。
4日目。僕は一族の女性たちと夕食をともにすることを許された。食堂に、一族が集結していた。
ディナーは正装する決まりであり、女はたちは思い思いの和装や洋装に身を包み、ティーンエイジャーたちは中学高校の制服を身に着け、それより幼い少女は、母親が用意した可愛らしい襟のついたシャツとスカートという姿だった。
僕だけが、くたびれたジーンズにシャツという恰好だった。姉志穂は険悪な目で僕をねめつけ、
「まあまあ、マサミチくん、なんて姿でしょう。まさか、そんなで、あかね流の一族を外で名乗っていないでしょうね」
名乗るはずがなかった。男子が外であかね流を名乗っても、何らメリットはない。
一流シェフが作った創作料理。しかし、僕にとっては味がしなかった。対照的に女たちは、よく食べ、よく飲んだ。あかね流先代は、90歳の大往生であったことから、追悼より、お祭り騒ぎに近い。特に、姉の志穂、叔母の理絵子、いとこのノリコ、それに茅ヶ崎小春…。おそるべき酒豪であり、酔いが回ると案の定、怪しい雰囲気になった。
料理のコースが終わると、女たちは、それぞれ飲みかけのグラスを手に、芝生の庭に下りて行った。
「わあ、お月さまがきれい」
鳥羽ゆみの娘茉優花が、心底感動したように、声を上げた。まん丸の月が、庭の中央にある泉に映っていた。
「あれ、まだ、残っているんだ」
鳥羽ゆみが、庭をくるくると歩きながら、パーゴラ(※バラを這わせる格子状の棚)の梁や柱を検分した。
「ふっふふふふ…まだあるわよ。ほら、マサミチ、こっち!来てごらんなさい」
姉の志穂が、僕の手首をつかんだ。赤い薔薇の屋根の下。パーゴラの梁や柱には、かつて利用された「滑車」や「フック」や「ロープ」や「チェーン」や「革の手錠」などが、そのままの状態で放置されていた。
「い、いやだよ。やめてくれ!」
僕は、思わず姉の手を払いのけた。少年時代の恐怖と屈辱の記憶が一気によみがえる気がした。
「ちょっと!痛ったいわね!叩かなくてもいいでしょ。なにもしないわよ!」
勝気な姉は、やられたのと同じだけの強さで僕の腕を叩き返した。
「なんだなんだ?どうした?」
理絵子叔母さんと、茅ヶ崎小春が近づいてきた。2人とも酔っている。茅ヶ崎小春は、つまみのイカか何かをくわえながら、
「えー、なにこれ。こんなところにロープ?」と、はしゃいだ。
「マサミチ、最近はどうなの?お風呂をのぞいたり、してない?」
理絵子が大きく胸の空いたドレスを見せつけるように、のぞき込んだ。
「そ、そんなこと…しないよ」
「えーーー!!ウソ、絶対に嘘。あんた、昔、私たちのお風呂のぞいたじゃん。夏休みに集まって、盆踊りして、花火を見て、いっぱい汗をかいて……美津子姉さんと、ノリコちゃん、志穂ちゃん、綾ちゃん、みんなでお風呂に入ったとき、あんた、見てただろ。それで、志津絵姉さんに折檻されただろ」
冤罪だった。むしろ理絵子が僕をからかう目的で、お風呂の順番をわざと早めて、バッティングするように仕向けたのだ。
「ぼ、ぼくは、そんなこと、してない…」
「えーー!でも、志津絵姉さんに折檻されて、泣きながら、みんなに謝ったじゃない!私たちの前で、素っ裸で、ちっさいオチンチンをぷるぷる震わせて、何度も何度も、土下座をしたの、昨日のことみたいに覚えてるよ」
返す言葉はなかった。理絵子は興奮した様子で、さらに煽りを続けた。
「まさか、覚えてないとは言わさないよ。この滑車装置、忘れようったって無理よね。当時、志津絵姉さんが、あんたを吊るして反省させるために、特別にしつらえたものだよ。立ったまま、大の字に吊るす方法と、両手・両足首を固定して、寝た状態でぶらさげることもあった。折檻はそれだけでなく、お水責めや、お灸責め、時にはお浣腸が選択されることもあった。そうそう、あるとき、お浣腸をしたら、あんたが勃起したことがあって、志津絵姉さんが激怒したんだった。あんときは、志津絵姉さんが“ちょん切る”って言って大変だった。私が止めてあげたんだよ」
「もうやめてくれ!!」
僕は、理絵子の豊満な肉体を避けて、その場から立ち去ろうとする。

「なんの騒ぎ?」 「うるさいよ」
志津絵、ヒカコが、10代の少女たちを引き連れて、ゆったりと加わった。16歳の志央里、14歳の沙梨菜、13歳の芽衣、10歳の結菜、7歳の茉優花。シャンプーや石鹸のいい匂いがした。不覚にもドギマギしてしまった。
「何をそんなに大声で話す必要があるのですか?」
一族を代表するように、亡くなった先代の娘、ヒカコが言った。彼女は、芸事に情熱がないため、後継ぎにはならなかったが、不動産や有価証券など莫大な遺産を相続したはずである。
「むかし、マサミチさんが、ここで折檻を受けた話をしていたんですよ」
姉の志穂が意地悪く目を光らせた。昔と変わってないと思った。
「ああ、マサミチは、よく裸にされていたわねえ…」
ヒカコが目を細めて笑う。
「女ばかりの家族で、唯一男だから、厳しくしつけたのよ」
義母も笑う。
「そしたら、中学を出ると同時に、逃げちゃった。まさか、親が決めた学校を蹴って、勝手に県外の全寮制に入るとは思わなかった。それでも、私は、黙って学費の支払いをして、大学まで出した。どうしてだか分かる?」
あかね流のプライドのためでしょう…と僕は思った。もちろん口には出さない。
「なんとか言いなさいよ」
姉の志穂が睨みつけた。僕は沈黙。
「えー!これって、お仕置きするための道具なんですか!」
茅ヶ崎小春が、滑車で動く仕組みのロープをぐいと引っ張る。かなり長い期間、風雨にさらされたため、今では機能しないと思われた。
「ここに、吊るすんですか!マサミチくんを??」
「そうよ、わたし見たことあるもん」
鳥羽ゆみが、不安そうな茉優花を抱き寄せた。
「心配しなくても、女の子にはしないわよ」
「へーっ。さすが、あかね流ですね。男には厳しく、女の子には優しく、ですか」
小春は感心して、滑車装置をスマホで撮影した。
「どうして裸にするんですか」
13歳の芽衣がシンプルに疑問をはさんだ。
「いい質問です」
ノリコが、娘の頭を愛おしげに撫でた。
「みんなが見ている前で、裸にする。それも、女性ばかりの家族の前で。その意味が分かるかしら」
「性犯罪の抑止、ですか」
16歳の志央里が、少し考えるような仕草をした。姉の娘だけあって、利発だと思った。
僕は、いつのまにか、様々な年代の14人の女性に取り囲まれていた。

「性犯罪の抑止ですか」
女子高校生の志央里が怒ったような目で僕を見ていた。
「さすが、志穂ちゃんの娘だ、わかってるね」
ノリコが大げさに手を広げて、賞賛のポーズをして見せた。
「せいはんざいのよくし?」
ノリコの娘の芽衣が復唱する。
「そうだよ。この世の中には悪い男がたくさんいるんだ。たとえば痴漢。たとえばDVなどの暴力。たとえば、女性差別。そうした悪い男を懲らしめて、屈服させるため、ここで折檻をするんだよ」
ノリコの母で、芽衣から見れば年の若い祖母にあたる美津子が、10代の少女たち全員を見渡した。
「じゃ、マサミチさんも、ここで折檻を受けたんですか?」
姉の次女、14歳の沙梨菜が、思春期の女子に独特の、だるそうな、うんざりしたような表情で僕を見つめた。
「そうよ」
妹の綾だった。
「お兄ちゃんは、私のお風呂をのぞいたのよ。当時、私は10歳くらいで、お兄ちゃんは中学生。私はショックだった。お兄ちゃんが認めないので、お母さんは、厳しい折檻を選ばねばならなかったのよ」
「えー、サイテー!私と同じ年じゃん。それでお風呂見られるとかって、あり得ない」
結菜が僕を睨んだ。他の少女たちも一斉に非難の目を向けた。
「ゆ、ゆいなちゃん、それは違うんだ…」
僕は慌てた。思わず結菜に手を伸ばそうとする。結菜は、さっと身をひるがえし、母親の背中に隠れた。
「ちょっと、お兄ちゃん、ゆいなを触らないで!」
「なにあんた、15年以上前の罪を、いまさら否定するわけ?」
姉の志穂が僕の肩に手をかけた。
「あんた、私と綾のお風呂をのぞいた。間違いないよ。なんなら、証人を呼ぼうか?」
“証人”とは、ハウスキーパーの内村奈々子だと思った。彼女は、僕のことが気に入らないらしく、お風呂をのぞいたと執拗に証言して、僕を貶めた実績がある。
「む、むかしの話じゃないか…今さら、むし返さなくてもいいだろ」
僕はのどがカラカラになるのを感じた。後じさりしようとして、つまづいてよろけた。大柄な理絵子が、僕の腕をがしっとつかんだ。
「逃げようったって、そうはいかないわ」 「うん。とりあえず、マサミチさん、座らせましょう」
理絵子と美津子が協力して、僕の腰を下ろすようにした。
「もう少し、折檻の話が聞きたいかも」
姉の長女、志央里が僕を睨みつけた。沙梨菜、芽衣、結菜、茉優花…と年齢順に手をつなぎ、僕を取り囲むようにした。その様子を見た理絵子が、真似をして、ノリコ、美津子、志穂、志津絵、ヒカコ…と手をつないで、輪を作った。鳥羽ゆみと茅ヶ崎小春も手をつないだ。女性の鎖が完成した。
「マサミチさんは、お風呂をのぞいたことを認めなかったのですか?」
志央里が僕の顔を間近にのぞき込んだ。女子高校生の甘い香りがした。
「お兄ちゃんは、最初認めなかったわね」
「最初だけ?あとで認めたのですか」
「ママの折檻は厳しいからね…まず耐えられないよ」
姉の志穂の影が、僕の背後で揺れた。
「最後は、わぁわぁ泣き叫んでいたわよね」
ノリコが両手をつないだまま、愉快そうに身をくねらせた。
「そうそう。女の子のお風呂をのぞいた罰として、自分も丸裸にされて。中学生でしょう。いちばん、恥ずかしい年齢よね。オチンチンに毛も生えて来てたし、それでも私たちは容赦しなかった。いや、恥ずかしくて、屈辱的だからこそ、折檻としては、効き目があるのよ」
美津子が調子を合わせた。
「目には目を、だね」 「可哀そうだけど自業自得」 「女だって、お風呂を見られたんだから当然」 「二度とお風呂のぞかなければいいのよ」10代の少女たちが口々に言った。
「もう…ゆるしてくれ…帰らせてくれ…」
僕は女たちに懇願した。しかし、そうした憐憫はかえって逆効果だということを忘れていた。女たちは、弱々しく赦しを請う僕の姿を見て、かえって舌なめずりするような表情になった。
「むかしは、ママの命令一つで、裸にされたものよ。マサミチも逆らわなかったし」
「えー、自分で脱ぐんですか?折檻を受けるために」
「そうよ。今からお仕置きって言えば、いつ、どんなときでも自分から服を脱いでよこしたわよね。どうしてだと思う?」
姉の志穂が、自分の娘たちに語りかけた。
「自分から脱がないと、もっと恥ずかしい目に遭うから?」
「ピンポーン!」
理絵子が歌うように言った。
「自分から脱げば、パンツだけは許される可能性がある。逆らった場合は、パンツも脱がされる。無理やり押さえ込んでね。だから、大抵の場合は自分から脱ぐように躾けられていた」
嘘だと僕は思った。ルール上はその通りだったが、結局、最後まで脱がされ、“お仕置き”と称して性器を嫐られることが大半だった。特に理絵子が参加している場合には。
「……なんか、さぁ。久しぶりに、マサミチくん、折檻したくなってきた」
ノリコが顔をゆがませて笑う。悪い冗談だと思った。
「ふふふふ。そうね。さぁどうする?自分で脱ぐか、それとも、強制的に脱がされるか」
妹の綾だった。どうして、お前までそうなんだ。夜職経験のある妹にしてみれば、これくらいは許容範囲の遊戯なのかもしれない。
「ええええええ、マサミチ、脱いじゃう?」
小春が酒臭い息を吐いた。飲みすぎだと思った。
「や、やめて…みんな悪い冗談だ。みんな酔ってるんじゃないか。ちょっと冷静になってくれ…」
だが、そのような問いかけは無駄であった。14人の女は、手を取り合い、包囲の鎖を縮めて接近してきた。
「自分で脱げるでしょ」 「脱いで」 「私たちが脱がしてもいいのよ」 「脱げ!!」
女たちが呪詛のように口をそろえた。
「や、やだよ。なんでそんなことになるんだ?!」
「だって、お兄ちゃん、私たちのお風呂のぞいたこと、認めないんでしょ」
「大昔の話じゃないか!」
「なにそれ、昔だって、ダメなんだよ」 「女性をなめてるのかしら」 「あかね流の恥だね」 「みっともない男だね」 「ほんとほんと!」
志央里、沙梨菜、芽衣、結菜、茉優花。5人の少女が言い合った。
「あら?このロープ、ひょっとして新しい?」
女性の鎖から外れたヒカコが、一本のロープ(梁から吊り下げられ、滑車で動くようになっている)をつかんだ。
「今年の春に、一部を改装したでしょう。そのときに実は、ロープだけ新調したんだ」
志津絵が余裕たっぷりに笑って見せた。
「だって、高校、大学と一度も帰ってこなかったマサミチさんが、10年ぶりに帰省したんだよ。それなりの歓迎をしてあげないとね。今宵は月がきれい…。ライトアップが必要ないくらいだ。…さあ、マサミチ。これで分かったろう?私は遊びじゃなくて、本気。いいかい。あと5数えるうちに、脱ぎなさい。逆らったらどうなるか分るでしょう」
いつのまにか、忠実な内村奈々子が母に寄り添っていた。内村奈々子(38歳)は、さらにお気に入りの部下である西島蓮(23歳)と、海堀心華(19歳)に命じて、ジュラルミンケースのふたを開いた。中には、男性向けの責め具が収められている。
最初から、女たちは僕をいたぶるつもりで計画していたのだと思った。悪夢の夜の始まりだった。

※cfnm小説の過去作品はこちらに置いてあります。



この記事のコメント
女性たちのCFNMな会話もいいですよね。
皆でオチンチンを見た話で盛り上がるボイスとかあったら、是非とも聞いてみたいですね。
ボイスも作りたいですね。もうちょっと技術が向上すれば可能だと思います。