女二十一人の集団リンチ(1)

プロローグ

 コインランドリーから人の気配が消えたのを確認し、俺は素早く中へ忍び込んだ。
 無人のまま音をたてて動きつづける洗濯機のふたを開くと、案の定、そこには女の衣類が
ぎっしりとつまっていた。

 こんなところに下着を残したまま、どこかへ行ってしまうなんて無防備ですよ、奥さん・・・・・・。
 それではまるで、盗んでくれと言っているようなものだ。
 俺は心の中でつぶやきながら、気に入った下着を物色する。
 一枚、二枚、三枚・・・・・・。上物だ。
 脱水がすんだばかりの、まだ水に濡れた下着三枚を、俺はGパンのポケットにねじ込んだ。

 そのとき、今までに感じたことのない、刺すような視線が、俺をとらえた。

 ふと顔を上げると、そこには先週まではなかったはずの、防犯カメラが設置されていた。
 しくじった!と気づくまでの時間が、約三秒。その間、俺の表情は凍りついたまま、ばっちりと
防犯カメラの冷たい無機質のレンズを凝視していた。

 ―――そして、お迎えがやって来た。

 下着泥棒の現場を押さえられた俺は、女たちから、これ以上ないというぐらい過酷な罰を受ける
ことになったのである。

一章

 「ちょっとォ!なにやってんだヨォ」
 「見ちゃった、見ちゃった♪」
 「怪しいっ!!」
 「キャーッ!チカンよ。ちっ、かっ、あぁぁぁんん!!」

 その日のお迎えは、まず意外なところから現れた。

 髪の毛を茶色や金色にそめ、パンツが見えそうな短いスカートにルーズソックスを着けた女子高校生たちが、突然コインランドリーの出口に自転車で乗りつけたのである。
 まるで怖いもの知らずの少女たちは、わいわい騒ぎながらコインランドリーに現れ、狼狽する俺を取り囲んだ。

 な、な、なんだ。君たちは・・・・・・。
 俺の声は、少女たちの勢いにのまれて、小さくかすれていた。

 女子高生たちの顔には、かなり濃いファンデーションがぬられ、か細くととのえられた眉毛と、ピンクや紫のルージュのせいで、とても十代の子供には見えなかった。
 二十六歳になるというのに、女性に対してはまったく奥手の俺は、それだけでもう、どぎまぎしてしまった。

 なんだ、お前たちは関係ないだろ。あっちへ行ってろ。そんなセリフが頭の中で何度もくり返されたが、 とても口に出すことはできなかった。

 「こいつ、チカンだぜ」
 レイナ、という呼び名の、金髪を肩までたらした不良少女が、乱暴な言葉で言った。

 「下着ドロボー」
 さとみ、という名前の、片方の耳にピアスを二つも三つも着けた少女が、呼応して言う。

 「やだ、きもーい」
 マユ、と呼ばれる小柄でやはり金髪の少女が言った。その言葉とはうらはらに、彼女はいかにも楽しそうだった。

 「どうする?こいつ、ケーサツに突き出そうか」
 最後に、四人の中では一応リーダー格みたいな特別な扱いを受けているらしい、ゆかり、という名前の、茶髪の少女が口を開いた。

 「いいわね」
 「そうしようぜ」
 「よっしゃ、連れて行こう」
 女子高生たちは軽いノリで賛成した。そして、みんなで俺の腕やシャツをつかみ、 コインランドリーの外へ引っぱろうとした。

 その間、四人はまるで俺と会話をせず、それよりもほとんど目を合わせることさえしない。
 本当に近ごろの女子高生は大人を馬鹿にしている。俺は自分がしたことも忘れて次第に腹がたち、つい大声を出した。

 おいよせ!子供のくせに、余計なことするんじゃない。
 だいたい昼間からこんなところで遊んでないで、学校行けよ、学校!

 だが、そんな言葉に耳を貸すような素直な連中ではなかった。
 ふだん人から怒られたりすることは、ほとんどないのだろう。俺に怒鳴られたのがよほど気にさわったらしく、 突然彼女たちはキレて殴る蹴るの暴行を加えてきた。

 俺は女子高生を相手に、簡単に敗北した。
 われながら自分の弱さにビックリしたが、敵は本気の四人がかりで、こっちは一切の手出しをしていないのだから、当然といえば、まあ当然である。

 俺は頭をかかえて、コインランドリーのコンクリの床にうずくまった。
 しょせんは女の子の力であり、少々蹴られたからといって大怪我をするというのではないが、このまま黙ってやられているわけにもいかない。

 俺は立ち上がり、四人組を睨みつけた。
 大きくひとつ深呼吸をしてから、彼女たちを怒鳴りつける。

 おいっ!いい加減にしろ。お前たち、こんなことして・・・・・・。

 そのとたん、今までに経験したことのない、すさまじいショックが俺の全身をつらぬいた。
 マユという名の少女が、鞄の中に隠し持っていたスタンガンを、いきなり俺の胴に押しつけたのである。
 ぎゃっ!!と叫んで、俺の身体はふたたび床の上に崩れ落ちた。

 十代の若者の中に悪いのがいるとは聞いていたが、本当に出会うとは思わなかった。
 彼女たちの鞄には教科書など入っておらず、スタンガンなどという物騒な道具を平気で持ち歩いていたのである。

 女子高生たちは、スタンガンのダメージでひっくり返ってしまった俺の腹を蹴飛ばし、

 「ちっきしょう!こいつ、ムカツク!!拉致ろうぜ」
 「キョウコたちのチームに頼んで、しめてもらおうぜ」
 「よっしゃ、ケータイ!何番だっけ?」
 「090-1283-XXXX」

 などという、怖ろしい会話をはじめた。

 俺の脳裏には、週刊誌や昼のワイドショーをさんざん賑わせた、最近のある事件が 思い浮かんでいた。
 それはたしか、地元の暴走族とトラブルになった二十代の女性が、男女七~八人の 高校生によって拉致・監禁され、半年以上もまるで家畜か奴隷のような生活を強いられただけでなく、残忍な虐待や拷問を受けたというものである。

 俺は戦慄した。
 スタンガンのおかげで視界が定まらず、腰もくだけてしまっているが、とにかくこれ以上彼女たちに身をまかせるのは危険である。

 俺はふらふらになりながらも、レイナという名前の金髪少女に近づき、その長い髪の毛をわしづかみにした。
 後から考えれば、電気ショックのせいで、だいぶ判断力が低下していたと思う。
 しかし、このときは本気で、彼女を人質にして逃げられると思っていたのである。

 キャーーッ、というレイナのはじめて本気の悲鳴が、コインランドリーいっぱいにひびいた。

 このやろう、大人をなめやがって!!

 女子高生たちの表情に、はっきりと恐怖が浮かんだのを、俺は見逃さなかった。

 俺はいい気になり、レイナの白くて細い腕を、ぎりぎりと締めあげた。

 と、そのとき、表に新しく人の気配が感じられた。
 俺にとっては地獄の閻魔にも等しい、本当の“お迎え”がやってきた。

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