「5,4,3,2,1…はい、時間が来ました。終了です」
鳥羽ゆみが、考えさせる暇もないくらいの早口でタイムアップを宣告した。
「タイムオーバー。マサミチ、覚悟はいいわね」
姉の志穂が、意地悪な横顔で僕を見つめた。
「ちょっと待ってくれ!こんなの一方的じゃないか、僕の言い分も聞いてくれ!」
「なに言ってるのよ。お兄ちゃん。あかね流のしきたりを忘れたの?男子に言いわけを許さず…この伝統があるから、私たちは200年以上も続いてきたのよ」
妹の綾が、あきれたような、非難するような表情で僕を眺めた。
10代の姫たち—志央里、沙梨菜、芽衣、結菜、茉優花—-は、それぞれ母の背に隠れつつ、好奇心と軽蔑が入り混じったで目で、僕を凝視していた。爛々と光る眼が怖かった。
「ほら、マサミチ。時間切れよ」
叔母の理絵子が、僕の脇に手をまわした。
「自分で脱げるでしょう?それとも、私たちの手で、ひん剥かれたい?」
あのころのようにね…と彼女は笑った。
太い腕が僕の胴を締め上げ、息が詰まった。もう一人の叔母美津子と、その娘ノリコが足を押さえつけ、綾が僕のシャツの裾をつかむ。
「やめろ!やめろって!」
必死に叫ぶが、声は庭の闇に吸い込まれるだけだ。志津絵が一歩前に出て、静かに、しかし絶対的な権威を帯びた声で言った。
「マサミチ。無駄よ。あかね流では、女性に逆らうことは、許されない。この家で育ったあなたが、それを一番よく知っているはず」
彼女の目は、義母としてではなく、あかね流の宗家当主としての冷徹な輝きを放っていた。
さらに背後から西島蓮が僕の右腕を強くねじり上げる。海堀心華も左腕を押さえつけ、まるで僕を十字架に磔にするかのように動けなくした。
「やめて…お願いだ…」
僕の声は、ほとんど泣き声に近かった。
「泣いたって無駄よ、マサミチ。あんたが逃げた10年間、私たちはこの家を守ってきた。あんたが捨てたこの家の掟を、今、思い出させてあげる」
志穂が2人の娘を前に押し出した。
志穂は嗜虐的に笑い、「ママたちが押さえてるから、あんたたちの手で、マサミチ叔父さんを、裸にひん剥いておやり」
「芽衣、あなたもやりなさい」 「結菜」 「茉優花」
それぞれの母が号令した。
少女たちは、母に忠実だった。言われるまま僕に群がり、シャツに手を伸ばした。16歳の志央里は、震える手で遠慮がちに。14歳の沙梨菜は、意外と大胆な手つきで。13歳の芽衣は、あまり表情を変えず冷静な態度で。10歳の結菜と7歳の茉優花は、“お姉ちゃんたち”がやることを間近で見守っていた。
「おまえたち、やめろ!!」
僕は、身をよじって抵抗した。しかし、おとなの女たちに四肢を抱かれているせいで、逃れようがない。
かろうじて動かすことのできた頭が、偶然、沙梨菜の胸を打った。
「きゃあ!なにするのよ!」 「ママ、こいつ、反抗する!」
沙梨菜と志央里は、志穂に助けを求めた。
「マサミチ、うちの娘にちょっとでも傷つけたら、許さないよ」
志穂が僕の左の耳を引っ張る。
「あと、10代の女の子に触るのも厳禁」
綾も僕の右の耳をつまんだ。
「おれは、触ってない。向こうから触ろうとしてきたんだ!!」
「おだまりなさい!!」
ここまで黙って見ていた志津絵が、僕のほほを張り飛ばした。久しぶりの感触…。
背後から理絵子が抱きつくように羽交い締めしてきた。分厚い肉の感触。さらに、妹の綾が僕の頭髪をつかみ、芝生に押し付けた。そのまま、僕の胸に馬乗りになった。
「沙梨菜ちゃん、ごめんなさいね。これでもう動けないから」
綾が立ち上がり、入れ替わりに沙梨菜がマウントポジションをとった。制服のスカートの隙間から、わずかに白いものが見えた。
「よくも…やってくれたわねえ」
沙梨菜は目をつり上げ、僕を見下ろし、一気にシャツを引きちぎった。いくつものボタンが飛んだ。しかし非力な女子中学生の手でできることはそこまでだった。
「はい、バンザイして」
理絵子が僕の両手をつかみ、その言葉通りの形に固定した。沙梨菜、志央里、芽衣が競うように、残りのシャツを頭から脱がした。
湿り気のある芝生が直接肌に触れた。少年時代の記憶がよみがえった。
「ほら、ほら!昔を思い出すでしょう。こうやって、よく折檻されていたわね。自分で脱げば良かったのに。逆らうから、こういう目に遭うんでしょ。ほーら、次はズボン。ズボンだよ。さっさと脱がしておしまい!」
志穂が号令した。幼い茉優花の手が僕のジーンズのベルトに伸び、力任せに引っ張る。
「やめろ!やめてくれ!」
抵抗しようにも、結集された女たちの力は、巨大な影となって僕を押しつぶす。
ジーンズが膝まで下ろされ、冷たい芝生に肌が触れた。羞恥と恐怖が全身を駆け巡る。
「さぁ♪いよいよ、あと一枚」
歌うように叫んだのは、おそらくノリコである。
「ほんとうにパンツまで脱がす?」
ただ一人“部外者”というべき茅ヶ崎小春が、少しおびえたような声を出した。
「あ…いや、べつに、口出しするつもりはないけど、ちょっと驚いた」
と、彼女らしい率直な感想を述べた。

「こ、小春さん、助けて!」
思わず僕は叫んだ。わらにもすがるような気持ちとは、こういうことだろうと思った。しかし、大学のゼミの先輩で、僕を好いていた(と勝手に思っていたけど、違ったかも…)小春は、光のこもった目で僕を見下ろし、
「それは無理よ。わたしは、あかね流のしきたりや、もっと奥深いところにある秘儀とか…色々学びたいと思って、ここに来たんですもの。それに、女として、あなたがやったことは、制裁に値すると思うし…」
「あらあら、見捨てられちゃったわねえ」
鳥羽ゆみが、大きく胸の空いたドレスを見せつけながら、しゃがみ込んだ。
「小春さんには、あかね流の男性懲戒術を、ぜひ学習してもらいたいわ」
小春が決意するように、うなずいたのが見えた。
一番屈辱の瞬間は、妹と、その娘結菜によってもたらされた。
何人もの女が協力して、僕の下肢を抱き押さえ、お尻を宙に浮くようにした。
そうして、女たちが見守る中、綾と結菜の母娘は、パンツのゴムを左右からつかみ、ゆっくり、ゆっくりと、めくり下ろした。
夜の庭に女の嬌声が上がった。
一糸まとわぬ丸裸…ではなく、左右の靴下だけ残された異様な姿である。
「裸で、靴下だけはかされてるのって、なんかヘンタイっぽいね」
「じゃ、このままはかせとくか」
ノリコと志穂が笑い合う声が聞こえた。

蒼い月明かりの夜だった。
薔薇の生け垣に囲まれた庭で、女に囲まれた僕の抵抗は無力だった。
「もうこれ以上は、やめてくれ…頼む…」
しかし女たちは、僕の哀願など、これっぽっちも耳を貸さず、朝まで陵虐の限りをつくした。
まるで、男たちが女性を支配・管理してきた過去の忌まわしい歴史を修正するために、女性であればだれもが一度は感じるであろう、男性社会の理不尽さや、恨みつらみを晴らすため、全男の代表として、たった独りの僕が選ばれたとでも言うように…。
あかね流の女たち。呪われた一族。僕の長い夜は始まったばかりだった。

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