「紅い薔薇の追憶」第2章

CFNM小説/短編
沙梨菜

「5,4,3,2,1…はい、時間が来ました。終了です」

鳥羽ゆみが、考えさせる暇もないくらいの早口でタイムアップを宣告した。

「タイムオーバー。マサミチ、覚悟はいいわね」

姉の志穂が、意地悪な横顔で僕を見つめた。

「ちょっと待ってくれ!こんなの一方的じゃないか、僕の言い分も聞いてくれ!」

「なに言ってるのよ。お兄ちゃん。あかね流のしきたりを忘れたの?男子に言いわけを許さず…この伝統があるから、私たちは200年以上も続いてきたのよ」

妹の綾が、あきれたような、非難するような表情で僕を眺めた。

10代の姫たち—志央里、沙梨菜、芽衣、結菜、茉優花—-は、それぞれ母の背に隠れつつ、好奇心と軽蔑が入り混じったで目で、僕を凝視していた。爛々と光る眼が怖かった。

「ほら、マサミチ。時間切れよ」

叔母の理絵子が、僕の脇に手をまわした。

「自分で脱げるでしょう?それとも、私たちの手で、ひん剥かれたい?」

あのころのようにね…と彼女は笑った。

太い腕が僕の胴を締め上げ、息が詰まった。もう一人の叔母美津子と、その娘ノリコが足を押さえつけ、綾が僕のシャツの裾をつかむ。

「やめろ!やめろって!」

必死に叫ぶが、声は庭の闇に吸い込まれるだけだ。志津絵が一歩前に出て、静かに、しかし絶対的な権威を帯びた声で言った。

「マサミチ。無駄よ。あかね流では、女性に逆らうことは、許されない。この家で育ったあなたが、それを一番よく知っているはず」

彼女の目は、義母としてではなく、あかね流の宗家当主としての冷徹な輝きを放っていた。

さらに背後から西島蓮が僕の右腕を強くねじり上げる。海堀心華も左腕を押さえつけ、まるで僕を十字架に磔にするかのように動けなくした。

「やめて…お願いだ…」

僕の声は、ほとんど泣き声に近かった。

「泣いたって無駄よ、マサミチ。あんたが逃げた10年間、私たちはこの家を守ってきた。あんたが捨てたこの家の掟を、今、思い出させてあげる」

志穂が2人の娘を前に押し出した。

志穂は嗜虐的に笑い、「ママたちが押さえてるから、あんたたちの手で、マサミチ叔父さんを、裸にひん剥いておやり」

「芽衣、あなたもやりなさい」 「結菜」 「茉優花」

それぞれの母が号令した。

少女たちは、母に忠実だった。言われるまま僕に群がり、シャツに手を伸ばした。16歳の志央里は、震える手で遠慮がちに。14歳の沙梨菜は、意外と大胆な手つきで。13歳の芽衣は、あまり表情を変えず冷静な態度で。10歳の結菜と7歳の茉優花は、“お姉ちゃんたち”がやることを間近で見守っていた。

「おまえたち、やめろ!!」

僕は、身をよじって抵抗した。しかし、おとなの女たちに四肢を抱かれているせいで、逃れようがない。

かろうじて動かすことのできた頭が、偶然、沙梨菜の胸を打った。

「きゃあ!なにするのよ!」 「ママ、こいつ、反抗する!」

沙梨菜と志央里は、志穂に助けを求めた。

「マサミチ、うちの娘にちょっとでも傷つけたら、許さないよ」

志穂が僕の左の耳を引っ張る。

「あと、10代の女の子に触るのも厳禁」

綾も僕の右の耳をつまんだ。

「おれは、触ってない。向こうから触ろうとしてきたんだ!!」

「おだまりなさい!!」

ここまで黙って見ていた志津絵が、僕のほほを張り飛ばした。久しぶりの感触…。

背後から理絵子が抱きつくように羽交い締めしてきた。分厚い肉の感触。さらに、妹の綾が僕の頭髪をつかみ、芝生に押し付けた。そのまま、僕の胸に馬乗りになった。

「沙梨菜ちゃん、ごめんなさいね。これでもう動けないから」

綾が立ち上がり、入れ替わりに沙梨菜がマウントポジションをとった。制服のスカートの隙間から、わずかに白いものが見えた。

「よくも…やってくれたわねえ」

沙梨菜は目をつり上げ、僕を見下ろし、一気にシャツを引きちぎった。いくつものボタンが飛んだ。しかし非力な女子中学生の手でできることはそこまでだった。

「はい、バンザイして」

理絵子が僕の両手をつかみ、その言葉通りの形に固定した。沙梨菜、志央里、芽衣が競うように、残りのシャツを頭から脱がした。

湿り気のある芝生が直接肌に触れた。少年時代の記憶がよみがえった。

「ほら、ほら!昔を思い出すでしょう。こうやって、よく折檻されていたわね。自分で脱げば良かったのに。逆らうから、こういう目に遭うんでしょ。ほーら、次はズボン。ズボンだよ。さっさと脱がしておしまい!」

志穂が号令した。幼い茉優花の手が僕のジーンズのベルトに伸び、力任せに引っ張る。

「やめろ!やめてくれ!」

抵抗しようにも、結集された女たちの力は、巨大な影となって僕を押しつぶす。

ジーンズが膝まで下ろされ、冷たい芝生に肌が触れた。羞恥と恐怖が全身を駆け巡る。

「さぁ♪いよいよ、あと一枚」

歌うように叫んだのは、おそらくノリコである。

「ほんとうにパンツまで脱がす?」

ただ一人“部外者”というべき茅ヶ崎小春が、少しおびえたような声を出した。

「あ…いや、べつに、口出しするつもりはないけど、ちょっと驚いた」

と、彼女らしい率直な感想を述べた。

茅ヶ崎小春

「こ、小春さん、助けて!」

思わず僕は叫んだ。わらにもすがるような気持ちとは、こういうことだろうと思った。しかし、大学のゼミの先輩で、僕を好いていた(と勝手に思っていたけど、違ったかも…)小春は、光のこもった目で僕を見下ろし、

「それは無理よ。わたしは、あかね流のしきたりや、もっと奥深いところにある秘儀とか…色々学びたいと思って、ここに来たんですもの。それに、女として、あなたがやったことは、制裁に値すると思うし…」

「あらあら、見捨てられちゃったわねえ」

鳥羽ゆみが、大きく胸の空いたドレスを見せつけながら、しゃがみ込んだ。

「小春さんには、あかね流の男性懲戒術を、ぜひ学習してもらいたいわ」

小春が決意するように、うなずいたのが見えた。

一番屈辱の瞬間は、妹と、その娘結菜によってもたらされた。

何人もの女が協力して、僕の下肢を抱き押さえ、お尻を宙に浮くようにした。

そうして、女たちが見守る中、綾と結菜の母娘は、パンツのゴムを左右からつかみ、ゆっくり、ゆっくりと、めくり下ろした。

夜の庭に女の嬌声が上がった。

一糸まとわぬ丸裸…ではなく、左右の靴下だけ残された異様な姿である。

「裸で、靴下だけはかされてるのって、なんかヘンタイっぽいね」

「じゃ、このままはかせとくか」

ノリコと志穂が笑い合う声が聞こえた。

  • 志津絵(59歳) 義母。あかね流の当主。
  • ヒカコ(57歳) 志津絵の従妹で、他界した先代の娘。
  • 志穂(39歳) 姉。
  • 志央里(16歳) 志保の長女。
  • 沙梨菜(14歳) 志保の次女。
  • 綾(26歳) 唯一完全に血のつながった妹。
  • 結菜(10歳) 綾の娘。
  • 美津子(54歳) 志津絵の妹。
  • ノリコ(34歳) 美津子の娘。
  • 芽衣(13歳) ノリコの娘。
  • 理絵子(52歳) 志津絵の妹。
  • 鳥羽ゆみ(29歳) 中学時代からの友人。
  • 茉優花(7歳) 鳥羽ゆみの娘。
  • 茅ヶ崎小春(32歳) 大学の先輩。
  • 内村奈々子(37歳) ハウスキーパー取り纏め
  • 西島蓮(23歳) ハウスキーパー
  • 海堀心華(19歳) ハウスキーパー見習い

蒼い月明かりの夜だった。

薔薇の生け垣に囲まれた庭で、女に囲まれた僕の抵抗は無力だった。

「もうこれ以上は、やめてくれ…頼む…」

しかし女たちは、僕の哀願など、これっぽっちも耳を貸さず、朝まで陵虐の限りをつくした。

まるで、男たちが女性を支配・管理してきた過去の忌まわしい歴史を修正するために、女性であればだれもが一度は感じるであろう、男性社会の理不尽さや、恨みつらみを晴らすため、全男の代表として、たった独りの僕が選ばれたとでも言うように…。

あかね流の女たち。呪われた一族。僕の長い夜は始まったばかりだった。

つづく

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