女二十一人の集団リンチ(6)

六章

 噂の“ウィメンズクラブ”は、K県・津田泉市の郊外にひっそりとたたずんでいた。

 広い庭のある、二階建ての建物である。

 『男子の入館を禁ず』と書かれたプレートがまず入り口の所にあり、今回のように痴漢の取り調べを 受けるために強制的に連行される以外は、原則男子禁制であるという説明があった。

 建物の基調にパステルカラーのピンクが採用され、全体的に女っぽさをかもし出していた。

 どことなく、幼稚園か保育園を思わせる造りだと思っていたら、事実、妊娠・出産のリスクを背負いたくない女たちが、あまり子供を産まなくなり、少子化が進んだため、必要なくなった保育施設を、必要に応じて造りかえたものであった。

 今、日本全体に、こうした女性のための施設が急増していたのである。

 * * * *

 榎本美沙子がドライバーをつとめるライトバンを先頭に、四台の車が“ウィメンズクラブ”に到着した。

 門をくぐると、すぐにブルーの制服を着た女性警察官が出迎えた。
 背はさほど高くないが、スポーツと武道できたえあげた筋肉質の身体を持つ女である。
 痴漢の取り調べを専門にする、三十歳の女巡査長で、名前は西澤奈緒美といった。
 彼女は駐車場所を指示すると、二台のタクシーにチケットを支払い、早々に追い返した。
 タクシーの運ちゃん二人は、ごっつい体格の中年男のくせに、負け犬のようにすごすごと“ウィメンズクラブ”を後にしていった。

 車での移送中、ずっと手錠となわとびで身体を緊縛されていた俺は、ここでようやく女巡査長の手で、 それを外してもらうことができた。
 だが、もちろんそれは、手錠などなくてもここでは絶対に暴れさせないという、彼女らの自信のあらわれである。

 「とうとう来たわね。ここまで来たら、覚悟をおし」
 女巡査長の西澤奈緒美が言った。彼女はあらかじめ無線で俺の情報を仕入れており、
 「いいわね。暴れたり、大きな声を出すと、あたしが承知しないよ」
 と言って、最後に俺の名前を呼び捨てにした。

 「では、さっそく取調室へ」
 榎本美沙子が言い、彼女の先導で全員が建物に入った。

 取調室として用意されたのは、昔保育園だった建物の、いちばん奥まったところにある、日の当たらない児童教室である。

 他の部屋はすべて改修がなされ、事務室なり、会議室なり、資料室なりに変わっていたが、ここだけはほとんど手がつけられていず、半分物置のようになっていた。

 置いてあるのは、さびたロッカーと、学校の理科室で使うようなステンレスの流し、そして教室の半分には、各室から集められた使い道のない児童用の机と椅子が無造作につみ上げられていた。

 女巡査長の西澤奈緒美は、その部屋の中に俺を投げ入れると、秋津静穂、榎本美沙子の二人に何ごとか言い残して、いったん部屋を出ていった。

 「お座りなさい」
 秋津静穂が命じたので、俺は手近な木製の椅子に腰をかけた。
 それなりに素直に応じたつもりだったが、榎本美沙子が怒って、椅子を力いっぱい後ろへ引っぱった。
 予期せず、俺は床に転落して尻もちをついた。

 なにするんだ!
 と、俺は彼女に抗議した。

 すると、秋津静穂は苦笑しながら、
 「ここでのルールを説明してなかったわね。あなたは床に正座するのよ」

 「そんなの当たり前でしょ。ほらッ!今から、被害者の女性があと三人見えるから、おどろかさないように神妙にしてるんだよ」
 榎本美沙子が言って、げんこつで俺の頭を小突いた。

 あと三人て、なんだよ?

 しかし、榎本美沙子は答える代わりに、
 「今から、“切りきざむ会”のルールを言うわ。一回しか言わないから、ちゃんと覚えておくのよ」

 「まず、第一に、ここでは女性からされた質問には、正直に答えること」

 「ウィメンズクラブの中では、男性に黙秘権は認められません」
 弁護士の資格を持つ、秋津静穂が言った。

 「第二に、女性が不愉快になるような態度、言動は慎むこと」

 「第三に、すべての女性に対して、敬意をはらい、丁寧な対応を心がけること。これらのルールが守られない場合は・・・・・・」

 ど、どうなるって言うんだよ。

 「はい、今の言葉失格」
 と、榎本美沙子が言った。
 言うと同時に彼女は俺の頭髪をつかみ、頬を上げ、バシッと一発ビンタをあびせた。

 「いいわね?あんたの態度が悪ければ、それだけわたしたちのやり方もきつくなるってことよ」
 “切りきざむ会”代表の榎本美沙子は、そう言ってあでやかに笑って見せた。

 そうしていると、すぐに女巡査長の西澤奈緒美が戻ってきた。
 彼女は見知らぬ三人の女性を連れていた。

 二十一歳の若いOL萩原貴子と、四十四歳オールドミスの寺内朋子。
 それに、十九歳、女子短大生の濱中香織である。
 いずれもコインランドリーで今までに下着の類を盗まれたことがあり、“ウィメンズクラブ”に被害届を出していた者たちである。

 こうして、十七人の女がせいぞろいした。
 そこそこの広さがあるとはいえ、さすがにこれだけの人数が集まると、元教室の取り調べ室には、むせ返るような化粧と、汗と、女のにおいが充満した。

 榎本美沙子、秋津静穂、それに女巡査長の西澤奈緒美が、あらためて自己紹介をし、 それから女巡査長がファイルにはさんだ書類を見ながら、俺の罪状を読み上げた。

 それによると、俺の犯した罪の数々は、まずコインランドリーで女の下着を盗んだのは当然として、下着泥棒を目撃し“注意しようとした”女子高校生四人にあべこべに身体を触るなどの痴漢行為をし、さらに買い物客の主婦数人にも暴力をふるった。さらに、今までスーパーマーケット付近で起きた、いくつかの痴漢被害、性的犯罪にも関与が認められる ・・・・・・というものである。

 だが、下着泥棒以外はこじつけであり、この中には関係ないヤジ馬女が、かなり含まれているはずだ。
 俺は弁明しなければならない。

 「それじゃ、まずあなたの言い分を聞きましょうか」
 秋津静穂が言った。おだやかな笑みを浮かべながら言う彼女には、少しは話も通じると思い、俺は懸命に訴えた。

 だが、こんなに大勢の女に取り囲まれて、周囲から敵意に満ちた目で睨まれていては、落ち着いて話すこともできず、俺は次第に早口となり、しどろもどろで自分でも何を言っているか分からなくなってしまった。

 秋津静穂は、それでも一応うなずきながら、一通り俺の弁明を聞いていた。
 しばらくして、小学生の水谷早紀に、こんな質問をした。

 「ねえ・・・・・・。早紀ちゃんは、以前、あそこの公園で、痴漢に出会ったそうよね?それで、できたら思い出して欲しいんだけど・・・・・・。このお兄さんは、その痴漢とは違うかしら?」

 「あ、いいのよ。思い出すだけでショックかもしれないし、分からなくても」
 榎本美沙子が、優しく微笑んだ。

 「どうなの、早紀。思い出せないの?」
 母親の水谷綾子が言った。

 水谷早紀は、しばらくの間、真剣な顔で考え込み、ときおり俺の顔を見つめ、大人たちの顔をうかがったりしていた。
 俺は彼女をおびえさせないように、できるだけ温厚な表情を作り、なあ、君と会うのははじめてだよなあ、と言った。

 「この男に間違いないわ。あたしたちに、あんなひどいことしたんですもの。絶対にそうよ」
 女子高生のゆかりが言った。

 俺は思わず叫んだ。
 なんで、お前はそんなデタラメを言うんだ!!

 「でたらめじゃないわよ。さっき、わたしのお尻触ったじゃない。こっちが四人だったから、いいようなものの、もしひとりだったらレイプされてたわ。きっと!」
 女子高生のレイナが言って、金髪をかき上げた。彼女は勝ち誇った表情をしていた。

 「聞かせてちょうだい」
 女巡査長の西澤奈緒美が言った。
 「この男に身体を触られたのは、二人だけ?」

 「あたしと、レイナ。あと、さとみはおっぱい触られたって言ってたわよね」
 ゆかりがリードすると、さとみという名前の女子高生も、証言しはじめた。

 「ええと、わたしはこの人がレイナに乱暴しようとしたのを止めたわけよ。そしたら、今度はどさくさにまぎれて、こっちの胸を触ってきたのね」

 「わたし、見たわよ」
 主婦の水谷綾子が、怒りを押し殺した声で言った。

 「あの・・・・・・わたしも。この人が、そちらの女子高生をはがい締めにしているのを、たしかに見ました」
 同じく、主婦の飯尾絵美子が証言した。

 女巡査長の西澤奈緒美は、女たちの言い分をいちいちノートに取りながら、
 「他に、この男が女子高生に乱暴している場面を見た人はいますか?」

 「見ました」
 「わたしも」
 秦野麻里と杉浦咲子が、それぞれ手を上げて言った。

 ふざけるな!みんなでたらめだ!!
 俺は憤激して立ち上がった。

 榎本美沙子が厳しい顔で俺の肩を押さえつけた。
 「ここでのルール忘れたの!最初にあんたの言い分だって聞いてあげただろ。そしたら、いそがしいのに、わざわざ集まってくれた女性たちの話だって、きちんと聞くのがルールってもんでしょうが」
 そう言って、彼女は俺の頭をげんこつで叩いた。

 仲間に負けじとばかり、女子高生のマユがさらにでっち上げの証言をつづける。

 「わたしは、この人に・・・・・・スカートをめくられました・・・・・・。それだけでなく、イヤだって言うのに無理やりコインランドリーの奥に連れていかれ、パンティの中に手を入れられて ・・・・・・それで、指で、あの、わたしの・・・・・・」
 そこまで言って、マユという名前の小柄な女子高生は、なんと本当に泣きだしてしまった。

 まったく、たいした演技力という他ないが、こんな話を本当に大人の女たちは信じるのだろうか?
 俺は怒るよりも、むしろ唖然として周囲を眺めた。

 「とんでもないわね・・・・・・。いいわ、今日これから、あたしたちが徹底的にこの男を追求して、自分がやったことを心から悔いるように、たっぷりとお灸をすえてやるから・・・・・・」
 榎本美沙子が言って、女子高生のマユが小さくうなずくのを見たとき、俺は今度こそ、本当にまずいことになったと気がついたのである

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