五章
怖ろしい“女の敵を切りきざむ会”は、わずか十五分ほどで到着した。
真っ赤な“♀マーク”のロゴが入った、銀色のライトバンが、少し離れた場所でハザードランプを点灯させ、そこから新しい二人の女が降りてきた。
ひとりはジーンズ、Tシャツというラフスタイルに、ファッション用のグラスを着けた、背の高い女。
榎本美沙子という名前の彼女は、二十九歳の若さで、女性上位のオピニオンリーダーとしてよく知られていた。
もう一人、明るいベージュのスーツに身をつつみ、榎本美沙子とは対照的に小柄で、落ち着いた雰囲気の女。
弁護士の資格を持ち、女性問題のエキスパートとして、家庭や離婚に関する数多くの著書がある。
彼女は秋津静穂という、やはりその道では名の知られた、四十三歳の女である。
“女の敵を切りきざむ会”からやって来た二人の女は、出迎える十一人に軽くあいさつをし、何度もねぎらいの言葉をかけ、女性たちの勇気と行動の素晴らしさを絶賛した。
水谷綾子、水谷早紀、秦野麻里らが、裸の俺を、コインランドリーの奥から引っぱり出し、“切りきざむ会”の二人の足元にひざまずかせた。
「この男が、そうね」
と、170センチ以上ありそうな榎本美沙子が、真上から俺を見下ろして言った。
ロングヘアーの彼女は、意外にも、大変な美貌の持ち主だった。
フェミニストらしく、化粧は眉をととのえ、薄い口紅をぬるぐらいしかしていない。しかし、それでも形よくむすんだ口と、意志の強そうな瞳が、自分は特別な存在だと主張していた。
その彼女の美貌に、俺は震え上がった。
「これからウィメンズクラブに場所を移します」
榎本美沙子が宣告した。
「ニュースか新聞読んだことあれば、当然知ってるわよね。ウィメンズクラブには、特に悪質な痴漢を取り調べるための専門の機関があって、そこでは普通の警察よりも、何倍も厳しい取り調べが行われています」
秋津静穂が説明した。
「もちろん、女性警察官が立ち合います。取り調べは、あくまでも女性の側の視点にたって行われ、身勝手な男の言い分を許しません」
榎本美沙子が言った。
「女性の手による、女性のための痴漢取り調べですから、男の暴言等によるセカンド・レイプの心配はありません」
大人の女たちが、さも納得したというように、大きくうなずいた。
「いいわね。センターに所属する、こわい、こわぁいお姉さまたちの手にかかれば、あんたみたいに 軟弱な男なんて、きっとイチコロよ」
水谷綾子が笑い、最後に、ざまぁみろ!とつけ加えた。
「それじゃ、さっそく参りましょう。移動にはわたくしの車と、タクシーを二台用意いたしました。
杉浦咲子が言った。
女の集団が俺を押しつつんだまま、コインランドリーの外に止めてある車のところに動きだした。
い、嫌だ!!
と、俺は身をよじり、叫んだ。
嫌だ。行きたくない。ウィメンズクラブだけは勘弁してくれ・・・・・・。
俺は出口の扉にしがみつき、奇声をあげて抵抗したが、情けないだけで、今さらどうなるというものでもない。
女たちは苦笑しながら、まるでだだっ子をあやすように、全員で協力して俺の手をひっぺがし、身体を持ち上げ、パンツ一丁のままコインランドリーの外へ運び出した。
い、いやだぁぁぁぁぁああ!!!
みこしのようにかつぎ上げられた俺の行方には、言うまでもなく、移送用に改造された銀のライトバンがひかえている。
この車は、外見は普通でも、窓の内側に金網がついているなど、男を連行しやすいように改造されていた。
やだ、やだ、やだあっ!!
・・・・・・俺を切りきざむ会へ連れていかないでくれ。
・・・・・・せめて普通の警察の取り調べにしてくれ。
・・・・・・ウィメンズクラブだけは・・・・・・許して下さい。
もちろん、泣いても叫んでも、またどれだけ頼んでも、“女の敵を切りきざむ会”の一度決められた方針が変わるわけがない。
ライトバンまで来て、なお地面にかじりついてでも拒否しようとする俺の態度に辟易した 水谷綾子が、とうとう殴る、蹴るを加えはじめた。
「いいかげんにおとなしくしろ!」
「その手を放せっ!!」
「こらッ、暴れるんじゃないの!」
さらに数人の女も加わり、まるで容赦なく俺を叩きのめした。
「暴力をふるってはいけません」
秋津静穂のやんわりとした一言で、女たちの暴走は制止された。
「捕まえた痴漢に対して、私的な制裁を加えることは、御法度なのよ」
秋津静穂は落ち着いた態度で、裸で地面にうずくまる俺を助け起こし、
「こうやって服を脱がしての身体検査なども感心できませんよ。まずは、ウィメンズクラブできちんとした取り調べをしてからでないと・・・・・・」
「被害者の女性には、痴漢に対する“報復する権利”があるのではないのですか?」
主婦の飯尾絵美子が質問した。
「被害者だけでなく、今日ここにお集まりいただいたみなさんには、等しく痴漢に対する“報復する権利”が認められています」
榎本美沙子が言った。
「ですが、個人個人で勝手にやられては困ります。そのために、“切りきざむ会”があるのですから」
「ウィメンズクラブでなら、可能なわけね」
水谷綾子が、娘の早紀の頭をなでつけながら言った。
秋津静穂は苦笑しながら、
「みなさんのお気持ちは分かります。しかし、そういうことは、ここではちょっと・・・・・・」
と、曖昧な返事をしただけだった。
秋津静穂の指示で、コインランドリーに残されたままの俺の衣服がかき集められ、今度はそれを無理やり身に着けさせられた。
乱暴な着せ方なので、シャツのボタンは互い違いになり、Gパンのチャックは下りたまま、靴下は両方とも裏返し・・・・・・という、ひどい格好である。
秋津静穂は、ウェットティッシュで、俺の顔や首など丁寧にぬぐった。
興奮しているので痛みはあまり感じないが、俺は自分で気づかないうちに、鼻血を出していた。
榎本美沙子が、ライトバンの運転席にすべり込み、ダッシュボードの中から、革でできた手錠を取り出して、車の外に放り投げた。
「また暴れないように、これを使ってちょうだい」
飯尾絵美子がそれを拾い、他の女たちの協力を得ながら、こわごわと俺の両手を拘束した。
小学生の並木美穂が、ビニールでできた子供用のなわとびを差し出し、秦野麻里が、自分のと合わせて、俺の腰をぐるぐる巻きにした。
女たちは、もはや完全に抵抗できなくなった俺の身体を協力して持ち上げ、まるで荷物のように、車の後部座席へと押し込んだ。
そうして、銀色のライトバンは、二台のタクシーを従えて、ウィメンズクラブめざして走りだした。