四章
女たちは、パンツ一丁になった俺を取り囲み、ねちねちとまとわりついては、奪い取った シャツやズボンを広げて調べたり、俺の肉体を観察したりした。
だが、これ以上どう調べても、なにも見つかるはずはなかった。
もう、それぐらいでいいだろ!!服、着せろよ。
「ああら、そうはいかないわ」
と言って、水谷綾子が、Gパンを広げて見せた。
「ほら・・・・・・いいものが出てきた」
彼女はズボンの尻ポケットに入っていた財布を取り出して、その中に入っている、『TSUTAYA CLUB』の会員証を、他の女たちにまわし見させた。
「そういえば、あなたの名前も、まだ聞いてなかったわね」
女課長の杉浦咲子が言った。
そ、そのカードに書いてあるの、見たんだろ。
「名前は分かった。あと、住所と電話番号、言ってもらうわよ」
「あんた、学生じゃないわね?社会人?今日、お仕事は」
「一人で暮らしてるの?あなたのお母さんにも電話するわよ」
女たちが勝手なことを口々に言いあった。
「うちの早紀にイタズラしようとしたの、あんたでしょう!?」
水谷綾子が、突然、冗談とも、本気ともつかない調子で、そう言った。
「早紀、あんた、前にあった痴漢の顔、覚えてないの?」
「・・・・・・どう、だったかしら・・・・・・。わたし、あん時は、怖くって、まともに相手の顔、見られなかったから」
「特徴だけですとか・・・・・・背が高かったとか、何でもいいのよ」
主婦の飯尾絵美子が言った。
小学生の水谷早紀が、じーっと、疑うような目で、俺の顔を睨みつけた。
「そうねぇ・・・・・・。似て、いなくもないわ。この人」
「そら、犯人に決まってるわ。わたしたちに、あれだけエッチなことをしたんですもの」
女子高生のゆかりが言った。
ふざけるな!!
俺は叫んだ。
「ふざけてんのは、あんたでしょっ!!」
水谷綾子が、また俺の頬を引っぱたいた。
彼女は俺の頭髪をつかみ、無理やり顔を近づけさせて、
「冗談で言ってるんじゃないのよ」
と言った。
水谷綾子は、一年前に自分の娘にイタズラした痴漢を、完全に俺のことだと決めつけて しまった。
彼女はパンツ一丁の俺が、反撃はおろか、ろくによけることもできないのをいいことに、執拗にビンタをくり返した。
小学生の水谷早紀は、かつて自分がこの近くの公園で痴漢に襲われたときのことを思い出したのか、ぐったりとして元気をなくしてしまった。
同じく、小学生で俺にパンツを盗られた被害者の並木美穂も、青い顔で沈黙してしまって いる。
俺は、今の自分が置かれた状態を忘れて、彼女らに同情した。こんな子供に悪さをしようとするなんて、世の中には悪い男がいるものだ。
しかし、間もなく俺は女たちから、その“悪い男”として、徹底的に糾弾され、責め呵まれることになるのだった。
遠くから、パトカーのサイレン音が聞こえ、その音はだんだんと大きくなってきた。
パトカーはスーパーの駐車場に到着したが、痴漢さわぎがどこで起きているのか分からず、うろうろとしているみたいだった。
「この場所を知らせてきます」
杉浦咲子が、そう言ってコインランドリーを出て行こうとした。
「ちょっと待って」
秦野麻里がそれをさえぎった。女たち全員が、怪訝そうな顔で彼女に注目した。秦野麻里はつづける。
「警察なんて言っても、しょせんは男の警官でしょう?わたしも何度か下着を盗まれて、やっかいになっているけど、アテにならないわよ」
ではどうするのだ、という女たちの視線が、彼女に集中した。
そのとき、なにかピンときた顔で、女課長の杉浦咲子が言った。
「あ、分かった。たしかに、男の警察に行くよりも、いいところがあるわね・・・・・・。わたしも、以前、社内で起きたセクハラ問題を解決するのに世話になったことがあります。あそこなら、絶対に悪いようにはならないから」
「あの・・・・・・なんの話でしょうか」
今回の“本当の”被害者である、主婦の並木瑞恵が、遠慮がちに質問した。
「わたしも聞いたことある。ウィメンズクラブの中に入っている、“切りきざむ会”のことよね。 たしかにあそこなら、こういった場合の取り調べにも、女性の気持ちを充分に配慮した やり方をしてくれるし・・・・・・いいんじゃないかしら」
主婦の飯尾絵美子が言った。
「代表の榎本美沙子さんなら、よく存じ上げています。よろしければ、紹介しましょうか?」
そう言って、杉浦咲子がハンドバックから携帯電話を取り出した。
「そうしてちょうだい」
「それがいいわ」
「じゃ、警察はキャンセルね」
女たちが口々に賛同する。
イヤだ!!
俺は反射的にそう叫んでいた。
彼女らの言う“切りきざむ会”とは、正確には、“女の敵を切りきざむ会”のことであり、 二日ほど前にテレビを見たばかりだった。
“情報最前線”とかいう、よくある密着取材のリポート番組の中で、“切りきざむ会”の活動内容が、センセーショナルに報じられていた。
そこでは、会に参加する女たち(その大半が、急進的なフェミニズム思想の持ち主である) が、セクハラ男をせまい取調室に監禁し、取り調べというよりも、吊し上げ同然、下手をすると集団リンチに近いことが行われていた。
俺は脇の下にじっとりと汗がにじむのを感じながら、もう一度叫んだ。
嫌だっ!!
杉浦咲子、秦野麻里、水谷綾子、飯尾絵美子、並木瑞恵ら大人の女たちが、 俺の脱走を防ぐために、ぐっと間をつめ寄せてきた。
さらに女子高生の四人組と、小学生の二人までが、大人の女たちの後ろにそなえて、厳重に俺を取り囲む。
「逃がさないわよ。“切りきざむ会”のお迎えが来るまで、じっとしててもらうからね」
そう言って、秦野麻里がトレーニング用のなわとびの紐を見せた。
もし少しでも逃げるような素振りを見せたら、この紐で縛るという意味なのだろう。
だが、彼女に言われるまでもなく、パンツ一丁では走って逃げることもできない。
「それじゃ、みなさん手分けして」
穏和な顔つきで、本来“切りきざむ会”などとは無縁そうな主婦の飯尾絵美子が、そんなことを言って女たちをリードした。
彼女は幼い二人の女の子を連れているが、そのまま“切りきざむ会”へ移動するつもり だろうか??
俺の感想など一切関係なく、女たちが動きだした。
杉浦咲子が携帯電話で“切りきざむ会”へ連絡し、さらに女たちが乗る車を手配しに、外へ出ていった。
水谷綾子、飯尾絵美子、並木瑞恵といった主婦連は、それぞれの娘に、それぞれの 言葉で“切りきざむ会”とは何か?についてレクチャーする。
女子高生たちは相変わらず、しおらしい“被害者”の役を演じているが、たまに目くばせしては、意地悪なニヤニヤ笑いをしたり、聞こえない声でバーカと言ったりした。
俺はもはや、やけくそな気持ちになって、ここで女たちを相手に滅茶苦茶な暴れ方をしてやろうかと思った。
だが、それよりも早く、女たちは俺の肩や腕をとらえ、集団でコインランドリーの奥の壁に押さえつけた。