そこへまた、新しい女が二人。
取り澄ましたスーツ姿の女が現れた。
皆川小夜子という名前の30前半の女と、吉川亜美という名前の20代半ばの女である。
霧島由起子が退職した後に採用された秘書課の女たちであった。
霧島由起子の一件があって以来、秘書課の女に近づくことを俺は母から禁じられていた。
そのため、皆川小夜子と吉川亜美には、ほとんど面識がなく、二人は夏樹沙耶が言う“被害者の会”ではないはずだ。
しかし、夏樹沙耶は、
「よく来てくれたわね。見ての通りの状況だけど、ちっとも反抗的な態度をあらためないので、どうしようかってところよ」
そう言って二人を招き入れた。
「うっわーー、ヒサンな姿ですねーー」
吉川亜美が言った。
彼女は長い髪をかき上げ、抵抗なく俺に近づいてくると、むき出しになった俺の肉体を、指の先でちょんと触った。
「もう動けないから、好きにしていいわよ」
「えーっ、ほんとうに、いいんですかぁ?」
「……今すぐ、この縄をほどけっ!!!」
俺は、凶暴な目で、新しく加わった秘書の女二人を睨みつけた。
「オレが、誰だか分かっているんだろうな!!」
「えー、知ってる。理事長の息子さんでしょ。有名な」
「だったら、言われたとおりにしろ!!!」
「えーーーだって、みんな、怒ってるよ?」
吉川亜美はケラケラ笑いながら、周囲を取り囲む女たちと、俺の顔を見比べた。
秘書のくせに、知性のかけらも感じられない馬鹿な女だと思った。
「おまえは、クビだぞ!!おい、そっちの女も、見てないで、なんとかしろッ!! こんなのどう考えてもおかしいじゃないか。集団リンチだろ、これ!!警察に通報してくれ!!」
しかし、もう一人の秘書、皆川小夜子は、物静かにたたずんでいるだけであった。
「なにを言っても無駄だよ、この学園にいる女全員が、あんたの敵だって、言ったはずだよ」
夏樹沙耶がそう言って、俺の腹にグーパンチを当てた。
後になって思えば、屈辱的な俺の姿を学園中の女たちに知らしめることで、俺の権威を失墜させ、 粉々に権力を打ちくだくことにこそ、首謀者である彼女たちの狙いがあったのである。
こうして、総勢16人の女集団が、ぐるりと俺を取り巻いていた。
夏樹沙耶(29)、西原エリカ(20)、深谷美雪(31)、澤井みつほ(28)、今瀬梨津子(47)、山口あゆみ(33) 澄田美和(37)、大崎裕美子(39)、浜名紀子(43)、霧島由起子(42)、榊英恵(52)、芹澤あかね(34)、 桑原冨美(38)、浅川優(27)、吉川亜美(25)、皆川小夜子(33)
「このあとは、どうする?」
サブリーダー的存在の山口あゆみが、首謀者の夏樹沙耶に尋ねた。
「このまま、三日間くらい、更衣室に吊るしておく?」
「ときどき、交代でエサをあげにくるか」
夏樹沙耶が残酷な目をして笑った。
「生徒たちが驚くわよ」
「この格好で女子更衣室に吊るしとくのは、教育上よくないわ」
と、深谷美雪。
「さらしものの刑。この男にはちょうどいいわ」
桑原冨美が鼻を膨らませながら言った。
「それもいいけど」
女医の今瀬梨津子が言った。
「もう少し、遊んでやったら」
「せっかく秘書課のお二人も来てくれたんだしね」
事務係長の芹澤あかねが賛同した。
彼女は俺の裸の上半身を指差し、
「日頃から、きたえたカラダを、こうやって大勢の女に見てもらえて、幸せねえ」
「有名なんだ、きたえてるの」
「だって、わざわざ脱いで見せようとするんだもん、わたしに」
芹澤あかねが俺に近づき、後ろ手に組まれた俺の二の腕をなぞった。
「それ、セクハラ」
山口あゆみが笑った。
「この人の場合、ちっとも驚かないけど」
「見せるのが好きだなんて、変態」
浜名紀子が言った。
「どうせ、ライザップかなにかで、にわかごしらえで鍛えたんでしょ」
「ヘンタイ!!」
「気持ち悪い!!」
女たちが口撃した。
「女の子とおなじ目にあわせるんだったわよね」
大崎裕美子が言った。
「おんなが、オトコにやられるだけの生き物じゃないってことも、教えてあげないとね」
澄田美和も言い、”女生徒の母親軍団”のメンバーと顔を見合わせ、うなづきあった。
「オレンジ色のブリーフなんて、イヤラシイわねぇ!」
浜名紀子が俺の下半身に手をのばした。
「よせっ!!この、欲求不満女めっ!!男の裸がめずらしいのかよ!」
「なんだそれ!?」
山口あゆみが、俺の顔面を張り飛ばした。
「女性を侮辱する発言は、許さないわよ」
「……ふん、図星だろうが。こんな風に、徒党を組んで、自分たちの権利を主張する。 卑怯じゃないか。オレをだまして連れて来て。それが女だ!!」
「それは、あなたが今まで自分でしてきたことの報いじゃないの!」
夏樹沙耶がビンタをあびせた。
「ほら、そうやって、すぐ殴る。自分が不利になると、手が出るんだ。女の暴力ほど、たちの悪いものはない」
「長い歴史の中で、男は常に加害者、女性は常に被害者です。そのことを忘れてはなりません。 男の暴力は、野蛮な歴史のくり返しに過ぎないので、絶対的に封印されるべきです。 これに対する女性の暴力は、ささやかなカウンターとして、許容される場合もあります」
女弁護士の榊英恵が、かたよった女性優位思想を披露した。
「ふん、フェミババアめ!」
俺は、彼女に向って唾をはいた。
今の俺にできるほとんど唯一の反撃であった。
「あなたは、そうやって言うけど……じゃあ、あなたが浅川さんにしたことは、たちの悪い暴力行為ではないの?」
榊英恵が、怒りを押し殺した表情で言った。
事務用品の出入業者の浅川優は、小柄な体に元気を詰め込んだような明るい性格で、学園のだれからも好かれていた。
その彼女が、今日は張り詰めた表情で沈黙しているのを、みんな口に出さないだけで不審に思っていた。
「浅川さん、なにがあったの……」
口にしてから、はっと気づいたように、深谷美雪が押し黙った。
「ごめんなさい……」
澤井みつほと、吉川亜美が、左右から浅川優の手を握りしめた。
「フン、レズビアンどもめ!女の仲良しごっこってやつか」
「自分のしたことが分かって言っているの?」
澤井みつほが目にいっぱい涙をためて、俺を睨みつけた。
「ふ、ふん、知るかよ!」
かつて、学園の倉庫で納品作業をしていた浅川優を、俺は手ごめにしたことがあるのだった。
だが、2年以上前のことで、彼女だって最初は嫌なそぶりを見せたが、俺を受け入れたのである。
いまさら強姦だと言われても俺は納得が行かない。
「……もういいわ。こんな男と議論してもはじまらない」
大崎裕美子が言った。
「今日、わたしたちは、あなたに罰を与えるために来たのよ」
「あんたがしたことを、思い知らせるためにね」
山口あゆみが言い、大崎裕美子、住田美和、浜名紀子ら”女生徒の母親軍団”と目くばせし合った。
「ふざけんな、お前たちこそ、あとで思い知らせてやるぞ!!」
「あなたの、その強気が、どこまで続くか……見ものだわ」
山口あゆみが目を細めた。
「ふ、ふざけんな……女のくせに……」
俺は精いっぱい強がって見せたが、彼女たちが憎い男に最大限の侮辱を与え、精神的に屈服させるために、 どんなことを企んでいるかは想像がついた。
「よ、よせよ!」
「あら、フフフフ、やめて欲しければ、もっと素直にお願いしなさいな」
霧島由起子が言った。
彼女は、過去に俺が言ったセリフを、他の女たちには分からないように、リピートして見せたのだった。
「これから何をされるか、分かっているようね」
「そりゃあ、あれだけ悪行を積み重ねていればね、当然ね」
芹澤あかねと、吉川亜美がうなずき合った。
「あんたが、男として、”それだけはやめて”って、言っちゃうようなお仕置きメニューだよ」
夏樹沙耶がにんまりと笑った。
「もう、謝っても遅いよ」
この女は、真正のドエスで、頭がおかしいと思った。
「だれが謝るか!!」
「それじゃ、スタート♪♪」
夏樹沙耶が俺のブリーフをつまみ上げた。
「馬鹿、やめろ!!」
俺は、両脚をばたつかせて抵抗した。
どうせ脱がされるにしても、憎い女たちに、一矢報いてやろうと思った。
しかし、無駄だった。
桑原冨美が、自己犠牲的に俺の尻に抱きつくと、蹴られることもいとわずに、がっちりと俺の両足首をつかんだのである。
バレー選手の山口あゆみが、すぐに加勢して、俺の下半身を完全に押さえ込んでしまう。
霧島由起子、澄田美和、大崎裕美子、浜名紀子らが、競い合うように、俺の最後の一枚をめくり下ろした。
女たちの嬌声が上がる。
脱がしたてのブリーフを、夏樹沙耶が俺の前で広げて見せる。
「どう?恥ずかしい」
俺の顔に息がかかる距離で、夏樹沙耶が言った。
「………………」
「答えて」
彼女が火のついた煙草を俺の顔に近づけた。
「……べつに」
屈辱に震えながら、俺はかろうじて言った。
「フフフ、そう」
夏樹沙耶は余裕たっぷりに笑い、霧島由起子にバトンタッチした。
「でも、すごく鳥肌が立ってるわよ」
霧島由起子が俺の耳元でささやいた。
「三澤家の御曹司が、素っ裸で吊り下げられて、オンナたちに、からだの隅々まで、鑑賞されているのよ」
彼女はそう言って、俺に甘く香ばしい息をふきかけた。
「イイ気味」
「ちきしょう!!」
「うふふ、そうそう、そんな風にあなたが悔しがる姿を、みんな見たいと思っているはずよ」
「………………」
「今日は、たっぷりと時間をかけて、嫐りものにしてやるからね。覚悟をおしッ!」
夏樹沙耶が宣告した。
