そこへ、深谷美雪がもどってきた。
新しい女を連れていた。
霧島由起子という名前の四十女で、かつて理事長室の秘書をしていた女性である。
秘書になる前は、国際線のCAをしていたという経歴の持ち主であり、四十を過ぎても化粧をすると色気があった。
俺がおととしクビにして以来、会うのはこれが初めてである。
「まさみちさん、お久しぶり」
と、元秘書の女は言った。
「わたしのこと覚えてる?」
「なんで連れてくるんだ!!」
俺は、深谷美雪を怒鳴りつけ、それから霧島由起子に言った。
「ここは、お前の来るところじゃない。すぐに帰りなさい!!」
俺は、せいいっぱい胸を張り、元秘書に命じた。
しかし、天井からロープで吊り下げられた格好では、威厳も何もあったものではない。
案の定、元秘書はひるまず、かえって俺の前にしずしずと歩み出た。
彼女はスマホを操作すると、俺の顔先に、画面の動画を突き付けた。
動画は、一歳くらいの赤ちゃんが、母親と思しき女性に呼びかけられて、嬉しそうに笑っているというだけの短いものだった。
「あなたの子供よ」
「げっ!!?」
「・・・・・・嘘よ。わたしの妹が去年産んだ姪の写真よ」
霧島由起子は、俺の表情を見逃すまいと目を見開き、
「あなたの子供は、あなたに言われたとおり、病院でおろしたわ」
と言った。
「お、脅かすな!いまさら、何を馬鹿なことを言い出したのかと、びっくりしたぞ。お前には、相当な額の手切れ金を渡しているはずだ」
「それもあなたのお母様からね」
深谷美雪が言った。
「あなたがあまりに不誠実だから、お母様が申し訳なく思ってお出しになったんだわ」
「サイテーの男だね」
山口あゆみが言い、
今瀬梨津子も、
「いまから、この最低男に制裁を加えるところだから、あなたも見て行くといいわ」
そう言って、霧島由起子の肩をポンとたたいた。
「どうするんですか?」
霧島由起子は、無様に吊り下げられた俺の姿を不安げに眺めた。
「これ、ほっぺた、やけどしてますよね」
「最低男には、最低男にふさわしい扱い方があるのよ」
夏樹沙耶が言った。
「ユッちゃん助けてくれ!!こいつらは、俺をリンチにかけるつもりだ。理事長に連絡してくれ」
昔の呼び名で、俺は霧島由起子に語りかけた。
七歳年上でバツイチの彼女は、当時俺に夢中であり、俺とセックスできただけで幸福をかみしめていたはずだ。
「助けてくれたら、母親にもう一度働けるように頼んでやってもいい」
しばらくの間、霧島由起子は無表情で、俺の顔を眺めていた。
やがて、しずかに近づくと、俺の顔面を張り飛ばした。
「馬鹿にすんな!!だれが!あんたなんかに!」
「ひゅーっ!!」
「いいぞ!!」
女たちが喝采をあびせた。
「あなたは、お母様に頼りすぎなのよ」
一呼吸してから、霧島由起子が言った。
「ねー、聞いてると、さっきからお母様に頼ってばかりじゃない」
「マザコンていうのよ!」
「こんな奴が、理事長になれるはずがない」
女たちが口々に言った。
「んー、ボクちゃんは、ママに助けてもらいたかったのかな??」
山口あゆみが、クスクス笑いながら言った。
「ママのおっぱい飲みながら、女のひとたちが僕をいじめるんだよ~って」
女たちが失笑した。
もはや、俺が理事長の一人息子であることも、将来の聖泉女子学園の支配者であることも、女たちには通用しない。
「冗談はともかく」
女性クリニックを経営している今瀬梨津子が、真剣な顔つきになって言った。
「この男には、女性のおそろしさを、たっぷりと教えてやりましょう」
「この男に、自分がやったことを思い知らせる必要があるわね」
霧島由起子が言った。彼女が、俺を「この男」などと呼んだのは驚きだった。
霧島由起子の発言に、女たちがうなずき合う。
「それじゃ、尋問開始」
今瀬梨津子が宣言した。
「じぶんの立場をわきまえて、正直に答えること」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あなた、自分が受け持ちの女子生徒に、何をしたんだって?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「当時、中学3年の浜中香織さんに対して、何をしたのか聞いてるのよ」
「小学6年生の大崎萌香ちゃんと、澄田みきちゃんには、何をしたの?」
山口あゆみが言った。
「ほら、質問に答えなさい!」
霧島由起子が率先して詰問する。
「あなた、浜名香織さんに何をやったの!?」
「答えないなら、もう一度、タバコの火の拷問だよ」
「お、お前たちには関係のない話だ・・・・」
「わたしは香織の母です。真実を知る権利があります!!」
浜名紀子が言った。彼女は、仕事中抜け出して来たらしく、銀行か何かの制服を着ていた。
「母親には知る権利があります」
大崎裕美子も言った。彼女は保険の外交員の制服姿だった。
「まず、縄をほどいてくれ」
「そんなこと言える身分だと思ってるの!!」
夏樹沙耶が、俺の顔面に、グーでパンチをあびせた。
女の細腕とはいえ、無抵抗な状態で殴られるのはたまらない。
「・・・ゆ、許してくれ」
「ゆるしてくれじゃないでしょ!女の子に何をしたか、聞いてるのよ」
「かんべんしてくれ」
俺は泣きべそをかいた。
「・・・とても口で言えないような酷いことをやったのね。そうね!」
夏樹沙耶が言った。瞳の中に炎が燃えていた。
彼女は俺のほっぺたを力いっぱいつねり上げて、
「それじゃあ、今日はわたしたちに、どんなお仕置きされても、文句ないわね。・・・答えろ!」
と叫んだ。
「・・・文句ありません」
苦しまぎれに、俺は答えた。
夏樹沙耶が、両手に力を込めて俺のシャツを引き裂いた。ぶちぶちと、いくつものボタンが飛ぶ。
「ようし!言ったわね。それじゃ、お仕置きよ」
「どうするんですか?」
霧島由起子が不安げに尋ねた。
「女の子と同じ目に遭わせるのよ」
「女が“男にやられるだけ”じゃないことを教えてあげるわ」
今瀬梨津子と夏樹沙耶が口ぐちに言った。
二人は、事前に打ち合わせができていたに違いない。
夏樹沙耶は、スポーツウェアの山口あゆみに、俺の両足を押さえるように依頼した。
「蹴られないように注意してね」
大柄な山口あゆみは、全身で俺の下半身に抱きついた。
今瀬梨津子が、まず俺の靴を脱がした。それからズボンのベルトをするすると抜いて、床へ捨てた。
夏樹沙耶がチャックとボタンを外す。そのまま一気にズボンを足元まで引きずり下ろした。
明るいオレンジ色のブリーフがあらわになった。
「やめてくれ」
俺は、カラカラになった喉から声をしぼりだした。
女の子と同じ目に遭わせるというのが、どういうことを意味するのか、俺がいちばんよく知っていた。
「自業自得ね」
母親の一人、澄田美和が言った。
「お願いだから・・・」
「あんたにイタズラされた女の子だって、そういう気持ちだったんだよ」
夏樹沙耶が、声のトーンを落とした。
「い、いたずらなんかじゃないって!女の子の方が、自分で脱いだんだぞ!」
「まだ言うか!!」
夏樹沙耶が、拳で俺の顔を叩いた。
「本当だって!!浜名香織に聞いてくれよ!」
「うちの娘は」
と、浜名香織の母、紀子が言った。憎しみに燃える目をしていた。
「この男に手を出された後、登校できなくなり、学校を変わったのです」
「嘘だ!」
俺は叫んだ。
彼女は進路のことで悩んでいて、クラス担任の澤井みつほが頼りないせいで、俺を慕っていたのだ。
俺が無理やり手篭めにしたのではない。
「嘘じゃないでしょう」
夏樹沙耶が言った。
「・・・こういう男なのよ」
深谷美雪が申し訳なさそうに言った。
「なにがこういう男だ!美雪、おまえ、こんなことに手を貸して、分ってるんだろうな!!」
「あんた、なにそのパンツ!!」
“巨乳ちゃん”の西原エリカが、俺の尻を引っぱたいた。
「オレンジのブリーフなんて、超ウケる~!」
女たちが失笑した。
かつて同僚であった深谷美雪と、澤井みつほの二人の女が、それぞれ顔をそむけた。
二人とも、俺が派手系のブリーフを好んで着用していることは、よく知っていた。
「男のくせに赤いパンツなんて、イヤらしいわね」
俺の下半身に抱きついている山口あゆみが言った。
「あんた、そういうのが趣味なの?」
「ははは、面白いから、写メしてやろう」
西原エリカがケータイで撮ると、何人かの女が真似をした。
「よ、よせ」
「えい!パンツ一丁にしてやれ」
山口あゆみが、俺の上半身をめくり上げ、下着のシャツを破き、胸からへその辺りまでを露出させた。
これ以上脱がせないところまでシャツを引っ張ると、裁縫用のはさみを持ち出して、切り捨てた。
「うわ、なに、このひと。わりと筋肉あるぅ」
自らもスポーツで鍛えている山口あゆみが言った。
「ナルシストだから、鍛えてるのよ」
深谷美雪が言い捨てた。
「どうでもいいだろ!」
「なにその口のきき方」
山口あゆみが言った。
「自分の立場を思い知らせた方がいいわ」
霧島由起子が言って、俺の顔面を殴りつけた。
「くそっ!」
「反抗的な目」
山口あゆみが言うと、霧島由起子がまた殴りつけた。
「由起子・・・おまえ、そこまで恨んでいたのか」
「おんなのうらみは、おそろしいのよ」
そう言って、フフッと霧島由起子は小さく笑った。
